2016年10月6日

新発売の飲料が売り切れる裏に街を走る男子を誰も知らない(DAY6)

去年の春ごろ、ある飲料が大ヒットして想定の製造数を超えた。
コンビニではすぐに売り切れ、飲料メーカーは市場予測の甘さを謝罪し、販売停止。
製造体制を整備してから販売を開始した。

当時、私は神保町に勤務していた。
話題の飲料を買おうとコンビニに行くと、ごく普通に並んでいる。
自宅近くのスーパーでは大々的に販売スペースを確保し、山のように積み上げている。

このギャップはなんなのだろうか。
どこか強烈に売れている地域があるのだろうか。

私はひとつの可能性を知っていたが、荒唐無稽な話なので誰にも伝えてこなかった。
でも、あれから一年がたち、自動販売機で売っているほど普及してきたので、話そうと思う。

紙袋の正体


わたしは会社帰りになじみの紅茶専門店によった。

ミルクをたっぷりいれた紅茶を飲みながら、買ったばかりの古本を読む。
店の中央にある大きな木目のテーブルは、快適な空間を作ってくれる。

カラーン、コローン
入口の扉につけた鈴が、新しい客がきたことを伝えた。

ちらっと見ると、こぎれいな服装の女性だった。
テレビで見かける女性タレントのような髪型をきれいにセットしている。
彼女もこちらに気づいたようで近づいてきた。

女性「先輩、おひさしぶりです。」

大学時代のサークルの後輩、といってもわたしが卒業してかなりたってからの後輩で、たまたまOBとして参加した現役と卒業生の交流会で何度か顔を合わせたことがある。
長澤まさみに似ていて、サークル内でも相当人気だったと聞く。
確か、大手企業の受付嬢だったはず。

彼女は当たり前のように、わたしの隣の席に座った。

私「こんばんは。その紙袋、かなり大きいね。」

老舗百貨店のマークが印刷された紙袋は。彼女の服装にはあまり似合っていない。

後輩「あ、ああ。これですか(苦笑)。先輩、最近、ヨーグルト味の飲み物が発売開始したのご存知ですか?見た目は透明なんですけど、味はちゃんとヨーグルト味なんです。」

彼女は紙袋から見た限り透明の飲み物が入ったペットボトルを取り出した。




私「もちろん知ってるよ。分野は違うけど、ぼくもマーケティングの人間だから。そんなにたくさん、どうしたの?サンプルでも配ってるの?

後輩「何日か前に、うちの営業のひとが外回りから戻ってきたときに1本もらったんです。新発売だからって。私、いま受付なので、営業のかたとよく会うんです。」

以前、彼女に「新商品にはマーケターの魂が込められている」と語ったら、
「マーケターの魂ってたくさんあるんですね」とツッコまれた記憶がある。

好きなのは新商品じゃないだろう


私「前にも言ってたね。新商品をよくもらうって。」

後輩「その営業のひとは新商品を試すのが好きなんだそうです。」

世の中には、新商品が好きなひとがいる。
実は私もそのひとりだ。
新商品は、ヒットしなければいずれ製造中止になる。
もしかしたら、そのときにしか味わえない貴重なものかもしれない。
だから手に取らずにはいられない!
話をもとに戻そう。

後輩「仕事が終わって帰ろうとしたら、その飲み物をくれたひととたまたま帰りが一緒になって。」

私「へえ。たまたまね…。」

まあ、そういう機会は自然には来ないから、しかけるんだよな。
彼女の恋の話に発展するのかと思ったが…。

後輩「それはよくわかりません。会社の出口で別れましたから。そのとき、飲み物のお礼を言ったんです。「あの新商品、美味しかったです。」って。」

私「ほう。相手の反応は?」

後輩「彼はうれしそうだったんですけど…」

私「けど?」

後輩「一緒にいた同じ部署のひとたちがちょっと…。」

私「ちょっと…、どうした?」

彼女を巡って修羅場になったのか???

後輩「その部署は営業なので、ほとんどのひとが毎日外回りに行くんです。次の日から会社に戻ってくるたびに、必ず新商品を買ってくれるようになって。」

私「えっ。その部署のひとって何人ぐらい?」

後輩「30人ぐらいいるはずですが、ほとんどのかたが。」

私「……。1日30本は飲めないな。」

後輩「いただくのはわたしだけではなくて、ほかの受付の子もです。おかげで、近所のコンビニはすぐに売り切れになって…。でも、営業のひとなので外出先のコンビニで買ってくるようになったらしいです…。」

私「サークルでもそういう混乱が起きたと聞いているけど、社会人になってもまた…。」

後輩「いえ。ほかの会社で受付をしている友人もよくもらうと言ってました。私固有のことではないと思います。」

私「……。で、紙袋は自宅用に持って帰る分?」

後輩「これはほんの一部です。すぐに会社の冷蔵庫がいっぱいになって。ほかの部署の子にもあげたんですけど、それでも余ってるんです。先輩、飲みませんか?」

私「俺は飲めない。込められた気持ちを考えたら、飲めんだろう。」

後輩は残念そうにペットボトルを紙袋にしまった。

冷めきったた紅茶を飲みながら、私は考えた。

いわゆるオフィス街で受付嬢のいる会社はどれくらいあるのだろうか。

東京都のうち区あたりの一部上場企業の数が100を超えているのは
  • 千代田区 329
  • 中央区 294
  • 港区 396
  • 新宿区 158
  • 品川区 126
  • 渋谷区 152
合計1455社(参考「最寄りの上場企業が地図上で簡単に検索できる | 上場企業本社まっぷ」

そのうち半数に受付があるとすれば723社。

仮にそれぞれ3人の受付がいて、1人あたり1日30本の飲料をプレゼントされていたら…。

1日65,070本。売り上げ976万円。

10日で65万本、売り上げ9,760万円。約1億円。

上記の計算は極めて乱暴なのでまったく信ぴょう性はない。

でも、古来から男性が好みの女性の気を引きたいという原動力は、マーケターの予測を超越するかもしれない。



会社が特定されないよう、若干のアレンジを加えていますが、上記のような話を聞きました。

さて、マーケターにとって市場予測は重要な業務です。
ぼくは衝撃を受け、あらためて消費者心理、特に男性の心理を深く理解しなければと思いました。

元営業男子のひとりとして、営業男子を応援したいです。

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現在このブログは1ヶ月間、毎日ブログを書くという無謀な企画に参加してます。
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「俺たち1ヶ月毎日ブログ書くぜ!」
残り25本…。 

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